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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)6861号 判決 1996年3月22日

原告

田川良一

被告

牧野雅一

主文

一  被告は原告に対し、金一九八万円及びこれに対する平成六年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、金六五五万円及びこれに対する平成六年七月九日(事故の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告がその所有にかかる普通乗用自動車を駐車しておいたところ、被告運転車両に追突されたため、被告に対し、民法七〇九条に基づき物損の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告車

原告は左記自動車を所有していた(以下「原告車」という。)

自動車登録番号 奈五六ゆ三九五四

登録年月日 平成元年二月二七日

初度登録年月 昭和四八年八月一八日

自動車の種類 小型

用途 自家用乗用

形状 箱型

車名 ポルシエ

型式 一一

車体番号 一一九二二〇〇三七

2  事故の発生

<1> 日時 平成六年七月八日午後六時四五分ころ

<2> 場所 奈良県五條市原町二九四番地付近路上

<3> 加害車 被告運転の普通乗用自動車(奈良五六ま一一五七号、以下「被告車」という。)

<4> 事故態様 被告車が駐車中の原告車に追突した。

3  被告の責任原因

被告は、前方不注視の過失により、本件事故を発生させた。

4  原告車の修理代

本件事故による原告車の破損箇所を修理するには二六〇万円を超える費用を要する。

二  争点

1  過失相殺

(一) 原告の主張の要旨

本件事故は被告の一方的過失によるものである。

(二) 被告の主張の要旨

事故現場道路は、被告車の進行方向から見て右カーブを描いているが、原告はその左側の路上に原告車と軽四輪車を駐車していた。このような駐車方法をとつた原告にも事故発生につき責任があるので、相応の過失相殺をなすべきである。

2  損害額全般

(一) 原告の請求内容

<1> 時価 四〇〇万円

原告は平成元年原告車を三〇〇万円で購入し、同年八月、二八〇万円を出費して改装したもので、その時価額は少なくとも四〇〇万円である。

<2> 代車代 九五万円

<3> 慰謝料 一〇〇万円

なお、被告は、原告車に前記改装が加えられたこと、原告が原告車に強い愛着をもつていたことを知つていた。

よつて、原告は被告に対し、右<1>ないし<3>の合計五九五万円及び<4>相当弁護士費用六〇万円の総計六五五万円及びこれに対する本件事故日の翌日である平成六年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(二) 被告の主張

<1> 原告車の時価は一五〇万円にとどまる。

<2> 原告は原告車を普段使用していたわけではないので代車の必要性はない。

<3> 物損に関する慰謝料は認められない。

第三争点に対する判断

一  争点1(過失相殺)について

証拠(原告本人、検甲七)によれば、<1>本件事故現場は、被告車の進行方向から見て、右カーブを描いているが、カーブは極めて緩やかなもので、見通しは良好であること、<2>事故当時、日は暮れておらず明るかつたこと、<3>原告車は道路端に寄せて駐車されてあつたこと、<4>付近は駐車禁止の規制もなされていなかつたことが認められる。これらの事実によれば、本件事故は被告の全面的過失によつて起きたもので、原告には、過失相殺をしなければ公平を害するような落度は見い出せない。

二  争点2(損害額)について

1  原告車の時価

(裁判所の認定事実)

証拠(甲二、四ないし一一、乙一の一ないし四、二の一ないし四、三の一ないし三、原告本人)及び前記争いのない事実を総合すると、次の各事実を認めることができる。

<1> 原告は、平成元年、原告車(ポルシエ二〇〇〇cc・昭和四八年製)を知人から三〇〇万円で購入し、同年八月ころ、国産塗装であつたものをドイツから取り寄せた塗料で塗装し直し、マフラーとゴム類、ダツシユボード及びサイドパネルの交換をなし、これらに二八〇万円を要した。また、平成五年にはエンジンのオーバーホールをなし、一四〇万円を要した(以下「本件各改装]という。)。

平成元年八月当時、原告車の走行に不具合はなかつたが、原告はオリジナルに近い状態にする目的で改装を行つたもので、平成五年のオーバーホールも走行上の不都合からなされたものではない。

<2> 平成七年八月ころ行われた外車のオークシヨンにおいて、昭和五一年製ポルシエ二七〇〇ccが一四七万二〇〇〇円で落札され、同年九月ころ、昭和五四年製ポルシエが一八八万円で、同年一〇月ころ昭和五〇年製ポルシエ三〇〇〇ccが一九八万円で販売されている。同じ年式のポルシエの三〇〇〇ccと二〇〇〇ccとでは、後者が高額であることもある。

(裁判所の判断)

よつて、判断するに、本件各改装の際、原告車に走行上の不具合があつたわけではなく、本件各改装は専らカーマニアとしての趣味を満たす目的でなされたものと認められる。したがつて、これらによつて、原告車に客観的価値の増加があつたとは認められない。平成元年当時の購入価格が三〇〇万円であり、本件事故時まで五年を経過していること、前記<2>の各価格から見て、本件事故当時の原告車の時価は、購入価格の六割である一八〇万円とみるのが相当である。

そして、原告車の修理代金は二六〇万円を超えるから(前記第二、一、4)、右一八〇万円が原告の損害となる。

2  代車代 〇円(原告の主張九五万円)

証拠(原告本人、甲二、三)によれば、本件事故前に原告車は車検の有効期間が満了しており、原告も事故当時、臨時運行許可証を得てカーマニアの会合に出席する予定であつたことが認められる。したがつて、代車の必要性はない。

3  慰謝料 〇円(原告の主張一〇〇万円)

物損事故においては、その経済的損失が填補されれば、原則として慰謝料を認めることはできず、本件において特に例外的に慰謝料を肯定すべき事情は認められない。

三  1の一八〇万円という金額及び本件審理の経過、内容に照らすと本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は一八万円と認められる。

四  よつて、原告の被告に対する請求は右二、三の合計一九八万円及びこれに対する本件事故日の翌日である平成六年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

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